僕の映画が見る上でのバイオレンス観に影響を与えた映画。
映画の中のバイオレンス要素は快楽を感じるように作られていますが、この作品はそんなジャンル映画に対するアンチテーゼが込められた映画になってます。
3人の優しい家族がドライブをしているOP,クラシックが流れている中で突然デスメタルが流れる序盤からしてもう悪意ムンムン。
あらすじ:優しい3人が住む夫婦のお隣さんが突然家に訪れて「卵を貸してくれ」と頼む。しかし卵を渡しても渡しても壊れてはくださいと募る男。耐えられなくなった妻は夫に助けを求め。夫はお隣さん2人を追い出そうとするが・・・
この序盤のお隣さんの会話がまず素晴らしい。表面上の会話は穏やかだけれど、言葉の端々やトーンで怒りを表現しているのが実にリアル。
でも確実に空気は悪い方向に進んでいっている。この空気感の作りが上手い!
人間の悪意や挑発の態度、言葉がリアルに作られてますね
そこから始まる暴力は陰惨かつ不快の一言。
映画のキャッチコピーに「最も不快な映画」と書いてありましたが、その言葉に偽りなしでした。
敵の男はなんと映画の人物に対する挑発だけでなく、観客に対する挑発も行っていく。カメラ目線で「アンタはどう思う?」と観客に向けて口にしたり「劇場映画の尺に足りねえよ」などのメタ発言含め、観客に対しても挑発をするハネケ監督の実に意地悪な性格がにじみ出る描写ばかり。
見ている間は「頼むから助かってくれ・・・!」と願うばかりでしたが、その期待のほとんども裏切られてしまいます。
ところが終盤で妻が悪党2人組の1人に発砲!
正直やった!っとガッツポーズしました。
が!
「リモコンはどこだ?」と相方のセリフ
↓
巻き戻し
↓
殺害阻止
ふざけんな!
って思いましたね。反則だろそれはと
でもハネケ監督は、やった!と感じた観客に対して「人が死んでやったーとか喜んでんじゃねーよバカ」と暴力の快楽を感じる観客を否定したかったんでしょうね。
最後に序盤の布石であったナイフがようやく出現し、これで助かるかと思いきやその希望もあっさり砕く2人組。
次の獲物の部屋に着いて映画は終わりを迎えるのでした。
そしてラストのこの顔!
正直寒気がしました。夢に出ますマジで。
まとめ
ミヒャエル・ハネケは映画の中の暴力に非常に反感を抱いていて、今でも映画の中の暴力はエンタメの道具として使われているわけです。
古くはジェームズ・ボンドが人を殺して捨て台詞を言うように、最近ではノーカントリーという映画で人殺しがエンタメに使われてましたね。
そんな映画の中の殺人や暴力が快楽のために使われている映画業界に対する怒りを具現化させたのがこのファニーゲームなワケです。
そしてハネケがそれを伝えるためにどうしたかというと、挑発をし続けるというスタンスでスリラー映画を撮る事でした。
僕としては、映画の暴力がいけないのはわかるけど、わざわざこんな挑発や映像の暴力で伝えなくても・・・と思ってしまう次第でございます。
そしてハネケ監督は、若い世代にこの映画があまり見られていない事が気になりさらにこの映画のリメイクまでしました。
( 役者以外はセットからセリフまで全部同じです。本当に)
セリフもセットもカット割りもほぼ全て同じという「この映画を見てくれる人間を増やすためだけ」のリメイクまで作る始末。どれだけハネケが映画の中の暴力に対して怒りを抱いているかが解りますね。
というわけでファニーゲームでした。見ることはメンタルの強い方以外はオススメできません。ハネケ映画全てに言えますが
おまけ
あまりにも陰惨な戦争描写の影響で、大槻ケンヂさんという歌手はこれ以降バイオレンス映画や映画の暴力を素直に楽しめなくなったそうです。
この映画の描写も正直笑えないタイプのバイオレンスですね・・・こういうアプローチに「暴力は良くない」というメッセージ性の篭ったシナリオの映画を作れば、まっとうなアプローチの映画内の暴力啓蒙映画になりそうですね。
ではまた。